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2007年5月18日 (金)

SAT隊員が出動現場で死亡-警察上層部の躊躇いが生んだ被害-

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070517-00000011-yom-soci

「警察庁によると、死亡した林一歩巡査部長は、特殊部隊(SAT)の隊員で、SAT隊員が出動現場で死亡したのは今回が初めてだ。午後9時20分ごろ、救出活動中に現場から7、8メートル離れた捜査車両の陰で警戒していたところ左胸に被弾した。18日午前0時14分に病院で死亡が確認された。防弾チョッキを着用していたという。最初に撃たれたのは県警愛知署・長久手交番勤務の巡査部長(54)。捜査員が接近できなかったため、首を負傷したまま倒れていた。」
2007051800000000maipsociview000
事件現場に余計な人間がウロウロし過ぎてるのはSATにとっては可哀想な気もします。これも県警本部が管轄の警察署や機動捜査隊、県警捜査一課などに手柄をばらまくためというか日本の警察全体の感覚の鈍さだと思えてなりません。SATだけが現場で活動し、テレビカメラがないという状況に出来るのなら、こういう損害もあるいはでなかったかとも思えます。 

さて、いきなり血なまぐさい話で申し訳ありませんが、戦場で正規軍が使用する小銃弾は高速で貫通力には優れてはいますが、殺傷力という面では若干劣ります。それには理由がありまして、戦場で敵の兵士を殺すよりも動けないような傷を負わせる方が効果的という考え方があるからです。

分かりにくい人は、戦争映画を思い出していただくと理解が早いかと思います。例えば『ブラックホークダゥン』。敵の支配地域にヘリから降下中のレンジャー隊員が誤ってロープから地上に落下して意識不明になります。それを分隊長以下が救い出し、救援の車両に運び込むのですが、その担架を担ぐのに2名、護衛に2名の隊員が必要なのがよく分かります。つまり、戦場では負傷者を多く作り出す方が敵の戦闘能力は確実に低下するのです。(この原理に当て嵌まらなかったのが白兵戦時の日本陸軍で、負傷者の救援はせずに突撃してくるのが敵には理解できなかったようです。)

つまり、戦場では作戦行動中に死傷する場合も多いのですが、その死傷者を助けようとして死傷してしまう場合も多いのです。今回のSAT隊員の死も、正にこのケースにあたります。殉職した隊員は防弾チョッキの隙間から銃弾が侵入して、左鎖骨から心臓まで達したために出血死したと言われています。それにしても防弾チョッキの方が不備(性能不足)だったのか首を傾げてしまいます。また、こうした場合に防弾性のある盾を装備しているものですが、今回どういう状況で使われたのか、後々の検証を待ちたいところです。

ついでに書いておけば、このような場合(一度目は銃を乱射して警察官を負傷させた時点、二度目はSAT隊員が死傷した時点)にSATの狙撃手が犯人を射殺できない日本の世論にも問題がありだと思います。(SATには、制圧班、狙撃支援班、技術支援班、指揮班がある)

警察官職務執行法第7条によれば、

(武器の使用)
第7条 警察官は、犯人の逮捕若しくは逃走の防止、自己若しくは他人に対する防護又は公務執行に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当な理由のある場合においては、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。但し、刑法(明治40年法律第45号)第 36条(正当防衛)若しくは同法第37条(緊急避難)に該当する場合又は左の各号の一に該当する場合を除いては、人に危害を与えてはならない。

1.死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる十分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他の手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のあるとき。

2.逮捕状により逮捕する際又は勾引状若しくは勾留状を執行する際その本人がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し、若しくは逃亡しようとするとき又は第三者がその者を逃がそうとして警察官に抵抗するとき、これを防ぎ、又は逮捕するために他に手段がないと警察官において信ずるに足りる相当な理由のある場合。

と規定されていて、「死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁こにあたる兇悪な罪を現に犯し、若しくは既に犯したと疑うに足りる十分な理由のある者がその者に対する警察官の職務の執行に対して抵抗し」に今回は該当すると思われるからです。
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実は警察には狙撃手による犯人射殺に関してトラウマがあります。1970年(昭和45年)5月12日に発生した、旅客船乗っ取り事件、通称「瀬戸内シージャック事件」において、大阪府警機動隊から派遣された狙撃手が犯人を狙撃し犯人を死亡させた事件がありました。事件後、自由人権協会北海道支部所属の弁護士(下坂浩介、入江五郎)が、狙撃手を殺人罪で広島地検へ告発。不起訴処分になりましたが、これ以降起こった日本の凶悪事件では、犯人が銃器等で武装している場合でも、なかなか射撃命令が下されなくなり、1972年のあさま山荘事件で犯人からの一方的な攻撃を受けて複数の警察官が殉職するといった事態を招きました。また射撃を行った警察官もマスコミの追及などから職務が続けられなくなり辞職に追い込まれています。

警察法(警察の責務)の第2条には「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。」とあるのですから、今回の事件の犯人は近隣住民の生命及び身体と財産の保護のために鎮圧すべき対象です。SAT自身の能力を生かす事も出来ず、ただ犯人が銃を乱射しているために出動させられたでは、まさに仏作って魂を入れず。こういう被害が出てから判断を決めたのでは意味がありません。

さて、最後にSATについて少し触れておきます。『SAT』の正式名称は警視庁SATの場合は「警視庁特殊部隊」(警視庁組織規則第64条より) です。今回の場合は愛知県警特殊部隊となってるのかどうかは不明です。SAT自体は「Special Assault Team」=特別(特殊)急襲部隊の略称です。

SATは「ハイジャックや人質立てこもり事件の際に人質の安全を確保しながら、容疑者を逮捕するために高度な訓練を施された専門部隊」と記事は解説していますが、実際は対テロ部隊として訓練されていて、ハイジャック事件の早期解決のために創設された歴史を持っています。この辺は記事にもあるように 1977年に起きた日本赤軍による日航機ハイジャック事件が契機になっています。当時国会で対テロ部隊を警察が保有することに一番反対したのは社会党で、「部隊創設が軍国主義の礎になる」と主張していたとか。

それでも1977年中に最初のSAT前身部隊が、警視庁機動隊と大阪府警機動隊に極秘裏に創設され、当時の警察庁長官後藤田正晴の視察を受けて運用がはじまったと言われています。SAT前身部隊は警視庁では通称「特科中隊」、大阪府警は「零中隊」と呼ばれていたのですが、実はこの事実は日本でなく米国のジャーナリストの出版した『世界の特殊部隊』という本がいち早く取り上げていたのにも関わらず、日本のマスコミでは誰も知らず、その本が邦訳されてマニアの間に噂が広まりました。余談ですが、@niftyの軍事フォーラムFDRで、この頃に自衛隊にも特殊部隊が創設され『101中隊』というのだ・・・という吾人がおられて、私が異議を申し立てたら炎上したことがありました。だって、『世界の特殊部隊』の英語版を読んでたけど、そういう話が載ってないんだから仕方がありません。SATは、その後1996年4月から、北海道警、千葉、神奈川、愛知、福岡、沖縄県警などにも設立されるようになり、現在では全国で約300名の隊員が任務に就いています。

一説では対ゲリラ戦にも投入可能と警察関係者は言ってるようですが、警察官として訓練された発想のままでは、虐殺されに出ていくようなモノです。 SWATやGIGNが戦争に出ていかないのと理屈は同じで、SASのような元々軍隊の特殊部隊が内務省指揮下で犯罪鎮圧に出てくるのとは違うという当たりの理解が、警察官僚にはできていないようです。

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コメント

 テロ朝(--;を見ていたら、解説者が「広島のハイジャック(シージャック事件)の時のように犯人を遠方から射殺できるだけの技量の警察官がいるのだからこれほど時間を掛けたのは・・・」とか世迷言を申しておりました。

 う~ん、よく言うよなぁ、あの事件の時に一番警察を非難していたのは朝曰さんだったのだがねぇ・・・(苦笑)

 まぁ、事件発生直後に突入したら「住民を危険に曝す」などと批難するのは目に見えているし、その結果、犯人が射殺されたら火を噴くような勢いでキャンペーンを張るのではなかろうか?

コメント有り難う御座います。私もその場面を見ておりました。思わず後ろに転けそうになりました。テレ朝と朝日新聞が如何にご都合主義なのかが判る場面でした。後学のためにビデオに録画してれば良かったです。

結局、マスコミが張るキャンペーンに乗せられない良識を読者や視聴者が持つしかこの国を変える道はないようです。

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