« 曲解 | トップページ | 緊急告知:あの軍学者兵頭二十八氏からの発表媒体公募です »

2007年6月23日 (土)

『旗を高く掲げよ』(Horst-Wessel-Lied)

http://www.asahi.com/international/update/0615/TKY200706140358.html

「元国連事務総長でオーストリア元大統領のクルト・ワルトハイムさんが14日、心臓病のため死去した。88歳だった。家族がオーストリア通信に明らかにした。大統領選を控えた86年、第2次世界大戦中のナチス・ドイツ軍将校時代にユダヤ人強制移送や旧ユーゴスラビアのパルチザン弾圧などに関与した疑いが表面化した。「自分の義務を果たしただけ」などと弁明し、軍歴の詳細は明かさずに残虐行為への関与を否定した。しかし、米国が入国禁止の措置をとるなどし、対外イメージを大きく落とした。 」

オーストリア大統領選中に表面化したのは、彼が戦前にナチスの青少年組織「ヒトラー・ユーゲント」に加入。ナチス突撃隊の将校となった事実が判明したということでした。当選後は、各国から「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」に指定され、旧ナチス関係者の入国を禁じる米国では、1987年に「要注意人物」に指定されています。その後も戦争犯罪容疑者として国際社会から強い批判を浴び、6年間の大統領在任中、バチカン以外の国を公式訪問できなかったワルトハイム氏ですが、その後の調査で、氏は旧ユーゴスラビア戦線には従軍したものの、戦争犯罪に直接関与した証拠は見つからなかったのです。しかしそれでも1992年の大統領選への立候補を断念し、政界を引退したのでした。

最初にご紹介した『(ワルトハイム氏が)ナチス・ドイツ軍将校時代』というのですが、彼が所属したのは「突撃隊」(Sturmabteilung 略号:SA)という組織であって、「ドイツ国防軍」(Wehrmach)ではありません。この点混同されないようにお願いします。おそらく朝日新聞の記事を書いた人は見分けが出来ていないのでしょう。

では「突撃隊」とは何かといえば、元々はナチスの自警団的組織でした。ミュンヘン一揆の際にも隊伍を組んでデモ行進をしたのが「突撃隊」で、この際警備の警察官と銃撃戦になった事からヒトラーが逮捕されることになったのは有名なお話です。その後ヒトラーが政権を取ると、「突撃隊」は補助警察的な仕事をするようになります。組織としても規模が大きくなり、その指導者のエルンスト・レームとヒトラーとの確執も度々起こるようになって、新撰組の芹沢鴨よろしく「長いナイフの夜」事件で「親衛隊」(Schutz-staffel 略号:SS ナチス党内部組織でヒトラーを護衛する部隊として発足)によって、レームと彼を支持する幹部が粛正されてしまいます。その後の戦時中は国防軍を補助する任務を請け負う準軍事的な組織へと変貌を遂げます。「突撃隊」はヒトラー政権が終焉を迎えるまでナチ党の最大の組織(最盛期には300万人前後)を誇り続けたと言われています。

さて、そんな突撃隊にオーストリア人のワルトハイム氏がどうして入隊したかと言えば、オーストリアは1938年にナチスドイツに併合され、既にドイツだったからです。ドイツでは1936年のヒトラーユーゲント法により青少年(10歳~21歳)は「ヒトラー・ユーゲント」に加入することが義務づけられています。この青年団組織は、肉体の鍛練、準軍事訓練、祖国愛などを集団活動を通じて教える組織でした。運営は突撃隊が行っていたの、戦局悪化と共に優秀な年長者は突撃隊へ組み込まれ、その他の若年者は戦局の悪化した1944年に「国民突撃隊」に併合されて多くの少年少女が犠牲になっています。

こんな風に「突撃隊の将校だから・・・」というのは、他にも多数のドイツ人が存在するような立場でしかありません。彼が親衛隊の将校だったというのとは随分話が違います。要は彼自身が戦争犯罪に荷担したかどうか。それのみが問題です。しかし、それも最初に書いたように関与の証拠は見当たらないというのですから、何を持って各国から「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」に指定されのか不明としか言いようがありません。

要するにナチス党に関わった人物がおよそ公職に就くなどという批判なのかということになります。それを言い出したらあの時代に法で定められた「ヒトラー・ユーゲント」に加入せずに、戦争にも出ていかないと言うことが可能だったのかを検証してみないといけないでしょう。だからこそ、彼は母国での大統領選に勝利して大統領になれたのですから。少なくとも投票した人々の内である程度の年齢層は理解できると判断したのでしょう。

国連事務総長まで努めた人物の死去にあたり、「元ナチス将校の過去」という冠がどうしても必要だったのかどうか、少し考えてみましょう。

最後に「突撃隊」のイメージソングをひとつご紹介しておきます。

『旗を高く掲げよ』(Horst-Wessel-Lied)

旗を高く揚げよ!

隊列は厳然たれ!

断乎たる歩武もて

突撃隊は行進す。

赤色戦線と反動勢力の

弾に斃れし同志ら、

魂魄となりて尚も

我らが隊伍と共に邁めり。

(*)現在、ドイツでは公の場でこの歌を唄う事自体が違法。もしそういう行為に及んだ場合は、その時点で現行犯逮捕される可能性がある。


このページは xfy Blog Editor を利用して作成されました。

« 曲解 | トップページ | 緊急告知:あの軍学者兵頭二十八氏からの発表媒体公募です »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/97581/15532519

この記事へのトラックバック一覧です: 『旗を高く掲げよ』(Horst-Wessel-Lied):

« 曲解 | トップページ | 緊急告知:あの軍学者兵頭二十八氏からの発表媒体公募です »

2015年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
フォト
無料ブログはココログ