文化・芸術

2007年5月14日 (月)

『君が代』は恋の歌?

「難波なる長柄もつくるなり今は我が身を何にたとえむ」

という和歌が、平安時代に編纂された古今和歌集(以後古今集)にあります。現在の淀川と新淀川の分岐点に架かる長柄大橋の付近に、その昔架かっていた『長柄の橋』を歌った古歌です。

『長柄』という言葉は、接助詞の「ながら」(意味:本来の姿で永続する)から来たと思われますが、昔の人が淀川に架かる橋の大切さをどう考えていたかが分かるネーミングだと思います。和歌の世界では『長柄』という言葉は枕詞して扱われます。「君が代」で始まる和歌には、「天皇の治世が長く続く事を願う」という気持ちから、『長い』に掛けて『長柄』と歌われる事が多いのはそういう理由からです。

この『君が代』について、以前、書道家の柏木白光さんが「君が代は・・・」と言うのは、恋の歌だと解釈されて聴衆の関心を買われていたのを思い出します。同じような説は結構流布してるようで、最近似たような事を質問されました。

私が読んだ柏木さんの解釈によると、元々古典などで天皇を示す言葉には「大君」(おおきみ)という言葉が多く用いられてきた。だから「君が代」の『君』とは、天皇を示すのではなく、二人称の代名詞で「あなた」と言う意味ではないかということでした。『代』の方は、源氏物語などで「男女の仲」という用法が見受けられるので、この辺りから「あなた」+「男女の仲」で「恋歌」という解釈が出来るという事になるという解説でした。

お話としては面白いのですが、私は二つの点で首を傾げて仕舞いました。

現在の『君が代』の歌詞は、『古今和歌集』に収められている「わが君は…」という和歌の初句を、「君が代は…」と改めたものです。つまり元々"大君"の事を詠った歌だと言うことを、どうやら柏木さんはご存じないようです。この「わが君は」の和歌は、古くから祝賀の歌として、宴席などで朗詠され、謡曲や歌舞伎などを通じて、江戸時代には庶民層にまで、広く普及した歌詞だったようです。

その歌詞を国歌にしようと最初に考えたのは、薩摩藩出身の大山巌(陸軍大臣・日露戦争の総司令官)です。明治2(1869)年に「天皇に対し奉る礼式曲」を作成するために、この歌詞を選んだのが始まりだと言われています。

曲の方は、明治9(1876年)に海軍省軍楽隊長・中村佑庸の提唱に基づいて,ドイツ人F.エッケルトを交えた4人の楽譜審査委員と,宮内省伶人長・林広守が雅楽旋律を採用した楽譜を選定したのが始まりです。

日本政府は、明治21(1888年)に政府は各条約国に対し,この楽譜をもとにして祝祭日に吹奏された楽譜を「大日本礼式」として送付し、正式に国歌として国際的にも認知されるように以後なっていくのです。また、明治36(1893年)には、文部省が学校儀式用唱歌として告示し、国歌としての教育も始まりました。つまり国歌として扱われる様になってから既に119年が過ぎようとしています。

意外に国家としての歴史が無いのは、世界史的に見ても国歌というものが制定されだしたのが、そんなに古いことでは無いからです。英国の国歌である『God save the Queen』が英国国歌に定められたのが1825年。英国が国歌を定めて以来、国歌を定めるのが欧州各国で流行になりました。実は国歌は、欧州でも200年程しか歴史が無いのです。しかも、その元歌は、一般に古い民謡や既成楽曲の転用が多いと言いますから、「君が代」が産まれたのも欧米列強に近づきたい明治政府の熱意が生み出したものだったのでしょう。また、『君が代』が昔からある様に思うのは、歌詞が平安時代から日本人に親しまれてきたからだと思います。

さて、手元の古語辞典を引くと、「君が代」とは、

<1>あなたの寿命

例:君が代もわが代も知るや岩代の岡の草根をいざ結びてな〈万葉集〉

<2>天皇の御寿命(つまり治世)

例:君が代は限りもあらじ長浜のまさごの数はよみつくすとも〈古今和歌集〉

と言う意味を持っていると解説されています。

つまり、「君が代」自体がひとつの単語として、昔から扱われている事になります。その熟語を分解して解釈を加えるという方法論は斬新なのですが、どうにも説得力に欠ける気がします。

念のために図書館で角川書店の古語大辞典(現時点では一番権威ある古語辞典)を引くと、「君」の意味として

<1>上代の姓

<2>天子または主君

<3>二人称の代名詞

<4>敬意をこめた三人称

<5>人名や官名の下に敬意を表す意味でつけられた語

<6>遊女

という説明がされていました。

「代」の方は

<1>人間が産まれて死ぬまで(一生)

<2>過去・現在・未来の三世

<3>人が生きている間に存在する社会

と書かれてあります。余談ですが、「代」が現代語の「世」に近い意味なのが分かります。

これを見ても分かるように、どんなに意訳を試みても、「君が代」は精々が「貴方の時代」くらいにしか、解釈は出来ないと思えるのでした。

いずれにしても、平安時代頃には、既に「君が代」と言う単語が存在し、最初に書いたような、その「君が代」を使った和歌が古今集で詠われていた事を考えると、どうにも柏木さんの説には同意しかねるというのが一応文学士(国文学専攻)としての感想です。

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2007年4月13日 (金)

纒向遺跡群が語るもの

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2006年5月18日 (木)

『ダ・ヴィンチ・コード』

  「宗教感」が日常生活に表だって影響を与えない日本では、今週の土曜日に公開されるMagdalen 『ダ・ヴィンチ・コード』のような作品も単なる娯楽作品としてしか扱われていない。しかし、カトリック教徒の多い国では、この映画の描く内容を宗教問題として捉えている動きがあることを知っておくのは、欧米の人々の信条を理解するのに有益ではないだろうか。

映画の原作となったダン・ブラウンの長編推理小説『ダ・ヴィンチ・コード』は、2003年にアメリカで出版され評判となった。その後、世界各国で44の言語に翻訳され、5000万部の大ベストセラーとなっている。日本でも最近文庫化されて読者を更に広げている。

物語は、ルーブル美術館の館長が死体で発見され、その死体がダヴィンチの有名な素描「ウィトルウィウス的人体図」を模した形で横たわっていたことから始まる。館長の孫娘で、暗号解読のプロでもある主人公は、祖父が自分だけにわかる暗号を残していることに気づいていく。やがて、館長が残した複雑なメッセージを解き進むにつれて、キリスト教の根幹を揺るがすこととなる「闇の歴史の真実」に直面していく。歴史推理モノとしては久しぶりにヒットした物語である。キリスト教の詳しい知識が無くても読者が物語を楽しめるように作品は工夫されているが、詳しい知識のある人々からは色々な意見が噴出するように、敢えてタブーに切り込んだ仕掛けに作者は挑んでいるという気がする。その意図は勿論話題作りだろう。

この作品を原作に製作された映画は、もちろんフィクションであるにもかかわらず、「この小説における記述は、すべて事実に基づいている」と作者自身が述べたことが発端となり、各方面で議論が巻き起こっている。そういえば、イスラム教の教祖モハメッドを風刺した漫画で外交問題やテロまで誘発したのは、つい最近の出来事だけに、宗教の占める重みが日本以外の国では違うのは我々が肝に銘じておくべきことのひとつだろう。日本では皇族でもあり歴史上の偉人でもある聖徳太子が実は男色の麗人だったという漫画がヒットしても、その内容を巡ってデモやテロが起こることなど、まずあり得ない。だから他国の人も同じ感覚なのだろうと思ってしまったら大変なことになるということだ。

実際に世界では『ダ・ヴィンチ・コード』がキリストに対する誤った認識を与える可能性があるとして、各地で論争が巻き起こっている。問題となっているのは、キリストがマリア(マグダラのマリア)と結婚し、子供をもうけたことを、ローマ・カトリック教会が隠してきたという箇所。彼女は美貌故に快楽に溺れ荒んだ生活をしていた罪深い女の代名詞で、キリストと出会ってから改悛して、後には聖人となった人物と云うことになっている。ギリシャ正教会などは「作品は真実を曲げた人心操作であり、常軌を逸している」と強く批判している。インドでは、政府に上映禁止を求めるデモが起こり、カトリック教徒の多いフィリピンでは、「大人の判断」が必要として、成人向け映画に指定されたりもした。大ヒットした『マトリックス』ですら国によっては公開禁止にされたし、昨秋公開された『コンスタンチン』も同様の扱いを受けた。最近はハリウッド映画にキリスト教原理主義的な意図を暗示させる作品が多いと指摘する識者もいる。現在のブッシュ政権には原理主義の有力者が関わっているからだという陰謀論も聞こえてくる。

世界の大半の国では宗旨の戒律が、その軽重の違いはあるにしても、人々の生活や倫理観に大きな影響を与えているということを、今一度理解し直しておきたい。

(映画のHP)
http://www.davincicodemuseum.jp/

(マグダラのマリアについて)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%80%E3%83%A9%E3%81%AE%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%A2

(マグダラのマリアについて)
http://theology.doshisha.ac.jp:8008/kkohara/sotsuron.nsf/f14108a5f8b3b073492569bf004aa4b8/de30ba693a56a3a449256b2700627b86?OpenDocument
http://www.foreignaffairsj.co.jp/wadai/index.htm#1

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